東日本大震災から今日でちょうど10年。
私自身は被災をしていませんが、福島は深い思い入れのある地です。
医者として最初のキャリアを歩み出したのは福島県の沿岸部、浜通りと呼ばれる地域でした。
2年という短い間でしたが、研修医として地元のスタッフの方々には多くのことを教えていただきました、また研究者としても、原発関連の健康被害を調査していた現地の研究班とともに活動でき、研究マインドを叩き込んでいただきました。あの経験は今にも活きていて、とても感謝しています。
デマを最新情報でアップデートしよう
原発事故直後から、風評被害や根も葉もない噂が広がっていました。
そして今も、その当時のデマを信じている人がいるかもしれません。
それはある種、仕方のないことであると思っています。
災害のことが報道で取り上げられる頻度は年月が経つほどどんどん減っていき、情報がアップデートされずにそのままになっているからです。
そこで、情報をアップデートしてない方むけに、私のわかる範囲、医療関連を中心に福島の情報をご紹介します。
10年経過した段階で健康被害の報告なし
国連に属する科学委員会(UNSCEAR)の調査では東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故による住民の健康被害はないとする報告をしました。
https://www.afpbb.com/articles/-/3335868
原発周辺地域の内部被曝測定も10年ずっと継続されており、健康被害が及ぶレベルの内部被曝をした人は発見されていません。
放射線よりも避難による環境の変化の方が健康被害を生んでいる
放射線の影響ではなく、災害による長期の避難生活により生活習慣病が増加していることが報告されました。これは長期避難による生活習慣の変化、食生活の偏り、運動不足、ストレスなど多重因子が絡んでいると推測されています。
https://www.minyu-net.com/news/sinsai/sinsai10/serial/FM20210116-576884.php
疾患(被爆)を恐れて生活様式を変化させることで別の疾患を招いてしまう。これは現在のコロナ感染症とよく似た状況です。
甲状腺癌の増加数は検査数の増加によるもの
「福島で甲状腺癌が増えている!」という噂も立ちました。これも研究がすすめられ、甲状腺癌の増加は検査数の増加によって本来発見されなかった無害な甲状腺癌を発見しているためと明らかになりました。
そもそも甲状腺癌は子供にも発症する腫瘍で、放射線の影響があるなしにかかわらず一定の割合で発症します。そしてこの腫瘍は何も症状を起こさない無害なものも含まれています。無害なものは検査されないので発見されていませんでした。
しかし、福島では震災後、この甲状腺エコー検査が徹底的に行われたため、もともと子供たちが持っていた無害な甲状腺がんを、精密な検査によって発見しているにすぎません。がんが「増加」しているのではなく、「発見」が増えているのです。事実、悪性の甲状腺癌の件数は事故前後で変化なく、死亡率も変わっていません。
http://ieei.or.jp/2020/03/special201706034/
復興は着実に進んでいる
インフラ整備も進んでいます。
原発のすぐ脇を通る常磐線。震災以降一部区間が運休されていましたが、9年の時を経て昨年に全線開通しています。
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_earthquake-higashinihon20200314j-01-w330
避難区域も少しずつですが着実に解除されています。昨年3月4日には双葉町の一部が解除されました。https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/list271-840.html
福島第一原発の廃炉も進んでいます。
https://www.tepco.co.jp/decommission/project/roadmap/
先日、宮城出身芸人のサンドイッチマンが実際に中に入っている様子がNHKで放送されました。
https://www.nhk.jp/p/ts/7W6941X42Z/episode/te/Q7641Z63NK/
放送をみる限りでも、私が内部を見学した3年前と比較して、労働環境も改善していますし、廃炉作業も進んでいます。
ないことを証明するために調査を続ける
10年、コツコツと積み重ねた調査の結果、原発事故による直接な健康被害は発見されていません。
それでも、福島での内部被爆線量測定は今でも続いています。それは、健康被害がないということを証明するためです。以下に震災後から現地で10年に渡って活動を続けている坪倉先生のインタビューを抜粋します。
内部被曝がないなら、『ない』という証明を、子どもたちに残していくことが大事ということ。
淡々と検査を続け、淡々とデータを残していく。それがあれば、原発事故の長期的な影響を懸念する声が出た時に、データを持って反論できる。差別や偏見を防ぐことができる――。
子どもたちを守れる体制を皆でつくることが、私たち大人の役割だと考えたのです。
本文インタビューより一部抜粋 https://www.m3.com/news/iryoishin/886337?from=openIryoIshin
知らないことはこわい だから勉強する
知らないこと、見えないものが恐怖に感じるのは当然です。ウィルスも放射線も目に見えません。
私は、だから勉強する必要があるんだと思います。わからないものを正しく恐れるために、まずそのわからないものをできるだけ理解する。そうすれば、実際に何に気をつけるべきか、対策が見えてきます。
コロナ差別の話を聞くと、福島の時の差別ととてもよく似ているなと感じます。無知ゆえの恐怖で、人を差別してしまう。この恐怖に対しての対抗策は教育です。
3.11を忘れないだけでなく3.11から情報リテラシーを学ぼう
今起きている新型コロナウィルスでも、福島の事故後と同様に信憑性がないデマが流布しています。
しかし、流されているデマをよく聞いてみると、中学や高校で学習する知識があればすぐにデマとわかる程度のものがほとんどです。原発事故後の風評被害を機に、科学リテラシーの重要性も徐々に広まっており、関連書籍もたくさん出版されています。
3.11を忘れない、だけでなく、3.11から我々は多くのことを学べるはずです。
過去の災害から学び、次に生かすことが、我々にできる犠牲者の弔いだと考えています。