運動が肌にいいのはわかってるけど…?
運動が身体にいいことは様々な研究で示唆されていましたが、どのような原理で運動が体に作用しているのかは、近年ようやく研究が進み始めました。
今回ご紹介する論文は、筋肉から放出されるホルモンが美肌を鍵を握っている可能性についてです。
筋肉はホルモンも分泌している臓器
骨格筋は腕や脚の筋肉、腹筋、背筋などで、体を支え、動かす役割を担っている一方で、最近の研究では骨格筋はホルモンを産生する内分泌臓器でもあることが分かってきました。これらの骨格筋から分泌されるホルモンが、2型糖尿病などの代謝性疾患や心血管疾患の病態に関わることが明らかとなってきたのです。
骨格筋ホルモン、マイオネクチン
マイオネクチン(Myonectin)は近年発見されたホルモンでC1q/TNF-related protein (CTRP)と呼ばれるタイプのものです。
CTRPは新陳代謝と免疫に関わるホルモンのグループで、このマイオクチンも脂質代謝の改善、過剰な炎症反応の抑制、心筋の再生などに関与しています。
筋肉量が多い人ほどシミが少ない
2018年のPOLAの研究では以下のことが明らかになりました。
・体重あたりの体幹と下半身の総筋肉量が多い人ほど顔のシミが少ない
・シミができない体質の人は、生まれつき筋肉の性質が異なる可能性がある
・体の筋肉量が多いほど、シワ、毛穴の目立ち、色ムラなどが少ない
身体の筋肉と顔のシミとの関係について、血液成分の解析と培養皮膚細胞を用いた検証を行ったところ、マイオネクチンが血液成分として皮膚に運ばれ、メラニンの生成を抑えていることが示唆されました。
ヒトは自らの筋肉でシミ抑制物質を作り出していたのです。
シミはメラノサイトの異常分泌
シミとはそもそも何なのでしょうか。シミは、本来は肌を守るためのメラニンが異常分泌された状態を指します。
外から物理的刺激(摩擦、紫外線など)が加わると、これをきっかけに炎症反応が起きます。炎症反応が起きると、皮膚の細胞は肌を保護するためにメラニンを生成します。ここで炎症が長引くと、メラニンがどんどん蓄積していき、メラニンキャップというメラニンの群生が出てきます。このメラニンキャップが皮膚表面にシミとして現れてきます。
POLA 発表から引用
マイオネクチンは複合的にシミを抑制する
今回の研究で明らかになったのは、マイオネクチンはこのシミの生成を複合的に阻害してシミを予防してくれる点です。
まず皮膚の物理刺激に対して過度な炎症反応を抑制します。またメラニンキャップも分解を促し、できてしまったシミを薄くしていきます。さらにはメラニンを分泌するメラノサイトの異常分泌も鎮圧してくれるので、新しいシミができてしまうのも予防してくれる、というわけです。
今後の研究課題
今回の研究では、具体的にどのような運動プラン(有酸素or無酸素)でどれほどの期間実施すれば良いのかは示唆されていません。まだマイオネクチンをヒトで行った実験は数が限られているので、今後の研究に期待しましょう。
紫外線対策は必須
今回の研究で運動は美肌に良いと言う理論がさらに補強されましたが、マイオネクチンはあくまでシミの生成を抑制する働きがあるのみです。紫外線を大量に浴びて、新しいシミを作るリスクを常に与えていては、運動による美肌チャンスが得られません。
参照:筋肉の細胞に働きかけ「マイオネクチン」を増やすエキスを発見 「マイオネクチン」に、シミなどの予防・改善につながる複数の働きを確認
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000276.000036737.html
美肌体質の秘密-筋肉が“鍵”を握ることを発見
http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20180925_3.pdf
CTRP family: linking immunity to metabolism https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22261190/
Myonectin (CTRP15), a novel myokine that links skeletal muscle to systemic lipid homeostasis
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0021-9258(20)53122-0
Muscle as a paracrine and endocrine organ
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28605657/
Myonectin Is an Exercise-Induced Myokine That Protects the Heart From Ischemia-Reperfusion Injury
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCRESAHA.118.313777